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 どれほどの意味があったかわからないというそれは、つまりその大きさがどのくらいなのか測りかねているということ。私にとって、そこに意味があったのかなかったのか、それはきっと最初から問題じゃなかった。
 意味はある。私は強く感じていたのだ。それがどんな色、どんな形、どんな大きさかはわからないけれど、ただ確かにあるのだと。
 そんな、出来事としては小さな、だけど私がこれからの自分を考えるときには、そこに何かしらの意味を感じざるを得ないようなその出来事が起こった日、高等部でも何か事件があったらしい。それは山百合会主催で行われた新入生歓迎会で。
 帰宅して、勘のいい姉に「秘密」を悟られないようにと内心ではずいぶんビクビクしていた私の様子にも、その日の姉は気を回す暇はなかったようだった。
「白薔薇のつぼみの誕生だわ」
 と、夕食のときそれを聞いた私は、「え、まさか本当に……真美さまが?」なんて、もしも口に出していたら姉にきょとんとした顔のあとに大笑いされるようなことを一瞬考えてしまったけれど、実際に数日前真美さまがたわむれに口にしたその出来の悪い冗談と微かに符合するような出来事が、そこではあったらしい。
 その事件が白薔薇さまの周りで起きたときに、白薔薇さまの一番近くにいた真美さまはさぞかしその幸運を喜んでいるんじゃないかと思う。そしてそのことがさぞかし姉には悔しかったんだと思う。
「妹に遅れをとるなんて、私のプライドが許さないわ」
 はむはむ。もぐもぐ。ごくん。
「真美に遅れをとるなんて、絶対に」
 とりあえず、口に物が入っているのに話す行儀の悪い姉はもちろん母に注意されたけど、それも姉の中で燃え上がる闘志の表れだったに違いない。意気込む姉はそれが空回りしなければいいと思うくらいにやる気にあふれていて、私はそんな姉を意識しながらも相づちのそのほとんどを母に任せきりにしていた。
 元々、姉との会話での相づちは母の方が多い。そして母は私よりもずっと薔薇ファミリーの動向に興味を持っているから、それは姉にも不自然には映らなかったと思う。あるいは、姉は多少私の様子がいつもと違うと気付いていた可能性もあるけれど、その事件をどうやってかわら版にしようかと頭をフル回転させていたそのときには、それは気にするべき項目としては無視していい程度だったのかもしれない。
 いずれにしても、そんな姉の熱心さはその日の私にとっては好都合だった。私は自分の抱える何かしらの意味を持つ「秘密」を誰かに見透かされたり、私より先に誰かに解読されたくなかったから。
「ごちそうさまでした」
 私はいつもと変らない様子を心がけて部屋に戻る。話しているせいで食べるスピードが少し落ちている姉はどうやら、少なくとも今日に関しては私に何も言ってはこないだろう。そんな安堵感も隠し持ちながら。
 部屋のドアを閉めて、もう少し安心して、日記をつけた。だけど、今日の出来事は可愛い天使たちやミサのことをたくさん書けたとしても、その出来事についてはただ「浅香さまに『またね』と言われた。」という以外の何も記すことはできなくて。仮に誰かにそれを見られたとしてもそこに意味は見出せないだろうから、私はかえってそこに確かに意味を感じる自分がその人を意識しているということを理解することになった。
 翌日。私は珍しく忘れ物をして、一度家に戻るといつも乗っている電車とは2本乗り込む電車がずれてしまった。もちろん意図的にじゃない。
 だけど、私はその1人で揺られる電車の中で、仮に意図的にじゃないとしてもそうなってしまったことを後悔して、こんな状況はむしろ自分自身にとっても逆効果だということを十分に悟ると、次の日からはちゃんといつもの時間の電車で登校した。
 顔を合わせた真純さまはきっと何も気付くことはなかった。その日に起きたマリア祭の事件に関するリリアンかわら版が発行されて、それが中等部の私のところに届くまで数日間、何も聞いてこなかった姉もたぶん。
 その姉が事実のように語っていた「白薔薇のつぼみの誕生」も、それがかわら版の見出しになるときには「か?」という文字が後ろにくっついて、不完全燃焼の姉の表情を直に知っていたせいか、私はそこになんとなく苦々しい様子を感じてしまった。
 もちろん、時間の問題だとしても、それが完全な事実になるまでは周りが勝手に決め付けたりなんてしちゃいけないのだから、それは仕方ないことだと思うのだけれど。


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