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 バレンタインデーの宝探しイベントの賞品は正賞がつぼみの直筆カード、副賞がつぼみとのデート権だったけど、その順列が実質的なものか形式的なものかは誰が考えても明らかだったと思う。その企画を知り、その賞品を知ったとき、私はその正副の順番にそう思った。
 そんな賞品の獲得者と、もしかしたら『つぼみ』の方だってドキドキ緊張しているかもしれないデートが行われる日の前夜のこと。
「ねえ、なっちゃん。明日は予定空いてる?」
「え……、出かけるけど、どうして?」
 尋ねられた私は、尋ねた相手、つまり姉が何かずいぶんと期待しているような表情だったことにわずかに警戒心を覚えて、特に予定があるわけでもなかったのに思わずそう返していた。なんとなく姉の「なっちゃん」もいつもより甘い感じに聞こえて、それもなんだか引っかかって。
「そう。それじゃ仕方ないわね」
 姉は私がそのとき瞬間的についたでまかせを信じたのだろうか? 残念そうで、でも、さほど残念そうでもない姉があっさりと引き下がったことにはやっぱりまだ少し警戒しつつも、一応「仕方ない」ということで納得を得たと思った私は尋ね返した。
「何か用事? お姉ちゃん」
「いやね。用ってほどのことじゃないんだけど」
 姉はそう前置きをして、言う。
「明日、取材でK駅に行こうと思うんだけど、なっちゃんも一緒にどうかなってちょっと思ったのよ」
「……取材? あ、バレンタインのデートの」
「そうそう、それよ。なっちゃん、よく知ってるわね」
 そして、やけにオーバーに姉は「さすが私の妹だわ」なんて、特にされたいわけでもない感心をする。私はそんな変な姉をそのままにしておくと頭でも撫でられかねないと思って先に疑問を投げた。
「お姉ちゃん。そのデートって取材同行のデートなの?」
 それじゃあんまり楽しめないと思うけど……。私はつぼみとつぼみのカードを見つけた人に姉がくっついて回る様子を想像すると、それはどう考えても「デート」の雰囲気が台無しだと思ったのだ。
 対してその姉は「何を当然のことを」といった風情で答える。
「同行なんてしないわよ。陰からちょっと様子をうかがうだけよ」
「……そう」
 それって堂々と言うことじゃないと思うけど……。私はそのある意味とても姉らしい答えにちょっと呆れた。デートをする側にとってはどっちにしろ迷惑なことには変わりないはずなのに。ただ、その答えがあんまり姉らしかったから、私は意味もなくほっとして、もしかしたら自分はそう答えてほしかったのかもしれないなんて、うっかり感じたりもした。
 私はそんな自分に気付くと苦笑する。そして、その苦笑を少し変化させて改めてちゃんと断った。自分のことだけど、うまく呆れた顔で笑えたんじゃないかと思う。
「私は行かない。邪魔はしたくないし」
「そう。わかったわ」
 今度はさっきよりもう少し残念そうに話を打ち切った姉が、私の「邪魔はしたくない」のどのくらいをわかったのか、それは少し疑問だったけど、もちろん私はそれを尋ねたり説明したりはしなかった。デートの邪魔も取材の邪魔も、そして姉妹の邪魔もなんて、そんなこと言わなくていいことだから。
 翌日、私はでまかせを本当にするために外出した。朝から出かけた姉より遅く、以前から一度行ってみようと思っていた学校のそばの公立図書館まで。
 その往きの電車の中で私は、賞品の順番はやっぱり合っているかもしれないとふと思った。それを見つけたからこそのデートということもあるけれど、デートだけじゃなく、その宝を探したこと、今年のバレンタイン全部がその人の大事な思い出になったなら、カードはその記憶を留めてくれる宝物になるだろうと思ったから。


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