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クリスマスを過ぎれば、あとは大掃除をしていたらあっという間に1年の終わりは訪れる。
中学生の私にとって、いくら夜更かしをしても全く怒られないほとんど唯一の日かもしれない大みそかの夜も、いつの間にか眠りに落ちていた私にはそのありがたさは残念ながら実感できなかった。目が覚めたときにはもう新しいカレンダーで時は進んでいる。
築山家の中で誰よりも早起きをした私は、普段よりだいぶ分厚い新聞を手にしながらその新しい空気を吸い込んだ。生まれたての新鮮さのような、爽やかで冷たい空気。1日前と同じ、冬という季節の空気。それは時間や季節に途切れなんてないことを示していながら、それでも何か区切れはあるような、そんな感覚を覚えるものだった。「なつ」だけど、こういう空気を私は嫌いじゃない。
少し朝寝坊の家族が起きると一緒におせちを食べて、届いた年賀状を姉と一緒に仕分けする。毎年送り合う友達に混じって前の年はお互いに送ることのなかった菜々さんからの年賀状を見つけると、私は少しほっとして、そしてそれより少し嬉しかった。私も元日に届くように菜々さんに「今年もよろしくお願いします。」とそのはがきを出していたから。
そんな仕分けの手が止まっていた私に、姉も1枚のはがきにふと手を止めてつぶやいた。
「あら、2人宛になってるわ」
「え?」
「あ、これのこと」
差し出されたはがきを受け取ると、確かにそこには「築山三奈子様」の隣に「なつ様」と私たち姉妹の名前が並んでいる。姉の言うとおり2人宛だ。私は表に差出人の名前がなかったから、「誰からだろう?」と、ちょっとだけその姉と私の名前の文字を眺めて、その人を予想しようとした。でも。
「なっちゃん、真純さんと仲がいいのね」
「え……。あ、うん」
あっさりと、私がその予想をする前に正解は知らされてしまった。もうちょっと考えさせてくれてもいいのに……。私はそのときちょっとがっかりして、はがきを裏返して改めて自分の目でも確認したその人の名前にも、もしかしたらそのとばっちりでちょっとがっかりしていたかもしれない。真純さまは何も悪くないのにお姉ちゃんのせいで。
「あっ」
そんな少しだけ抗議の色を含んだ視線を姉に送っていた私は大変なことに気付いた。まさか私の名前を宛名として姉の横に並べてもらえるなんて思っていなかったし、姉と別に私からも出したら返す手間がかかるだろうからと、私はその人には年賀状を出していなかったのだ。
「私、真純さまに出してない……」
どうしよう。私は気付くとその失敗をひどく悔やむしかなかった。相手はいつもお世話になっている上級生。返信の手間をこっちで考えて出さないなんて、それはかえって失礼なことだったのに……。
「今日出すと、いつ届くのかしら?」
気を利かしたのか、私が次に考えたことを姉は口にした。失礼はもうしてしまったことだから、あとはできるだけ早くそれを返す以外にないけれど、でも、郵便屋さんがいくらがんばってくれてもたぶん着くのは2日後の3日がせいぜいだろう。私は一瞬迷った。真純さまのお宅はすぐ近くだから直接ポストに投函しに行こうかと。
ただ、結局私はその方法は採用しなかった。もし万が一その場で本人に会ってしまったら、恥の上塗り。ばつが悪いどころの話じゃないから。
年賀状の仕分けを終えると私は素早く部屋に戻って真純さまへのはがきを書いた。遅れてしまったから、その分より丁寧な文字を心がけて、「ごめんなさい」と「今年もよろしくお願いします」を。
そして、直線距離なら真純さまのお宅とほとんど変わらないだろう、逆方向に100メートルくらいのところにあるポストにそれを投函し家に戻る。すると、私はなぜか困惑の色がだいぶ多めに混ざった怪訝そうな顔に迎えられた。
そのほんの十数分の間に何かあったのだろうか? その表情と同じ様子の口調で姉は私に尋ねた。
「なっちゃん……。浅香さんとも仲がいいの?」
「……え?」
私はその質問に「ううん」と首を振るにも少し時間がかかった。そもそも、その「浅香さん」を思い浮かべる時点で多少時間が必要なくらいだったから。つまりそれは、その人と仲がいいとは普通言わないという証明でもある。それなのに。姉に見せてもらったその人からのはがきには確かに「妹さんにもよろしくとお伝えください。」と記してあった。
何がどう「よろしく」なのだろう? その「妹さん」は実は私のことじゃないのだろうか? 私も姉と同じく、それにはわからない気持ちでいっぱいだったから、私はただその人の文字を、きれいで、どこか可愛らしいと思うこと以外何もできなかった。