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同じリリアン女学園の高等部と中等部だから、その年中行事はわずかなずれはあるものの大抵は同じ周期で巡ってくる。それが体育祭や学園祭のように、父兄その他のお客様を校外から迎え入れる行事だと日程が重なってはまずいから多少前後して、逆にそういった事情がない行事なら同じ日程で行われるものもある。そして、中には重ねておく方がずっと効率的なものだってあったりもする。
12月の中旬。期末試験。それはそんな高等部と中等部で同じ日程で行う方が効率的な「行事」の1つだ。
効率的な理由はいろいろあると思う。片方が試験をやっているときに片方が騒がしくしていたら気が散って困るだろう。校舎は別と言ってもその空気はきっと伝わる。
リリアン女学園という、たぶん一般的な学校よりは静かなのだと思われる学校の普段の空気とはいえ、張りつめた緊張感のある空気に比べればそれが賑やかであることは確かなはずだ。それなら両方を静かにさせておくに限るというもの。そしてそれは、何も学園内だけに限ったことじゃないのだから。
家に帰って片方が試験で片方が日常だったら、気は散るし気を遣うことになるだろう。それは、そんな高等部と中等部のそれぞれに娘を通わせている親にとっても同じことだと思う。
期末試験がんばって頂戴ね、と。そんな風に母親が口にするとき、そこでもやっぱり試験期間が同じである方が効率的だ。その上に「2人とも」と付ければそれを1度で済ませることができる。勉強勉強といつもがみがみ言っている印象を娘に与えないことを考えれば、それに越したことはない。
「三奈ちゃんも、なっちゃんも、2人とも期末試験がんばって頂戴ね」
「……」
「うん」
「……三奈ちゃん? 聞いてる?」
「え、うん。もちろん聞いてる。大丈夫大丈夫」
「……」
ただ、問題なのはそれを築山家に当てはめた場合、姉妹の妹の方には元々その手の励ましの必要があまりないし、逆に姉の方にはその手の励ましの効果がほとんどないということ。特にこの12月の期末試験というのは姉にとっては、より集中しづらい環境で臨む試験なのだ。
リリアンかわら版は黄薔薇姉妹の復縁について伝えることなく一時その活動を休止する。何しろ記事を書いているのが生徒なのだから、試験期間中にかわら版を発行することなんてできないのだ。もちろん、さすがの姉にとってもそれを覆すことはできない。
破局には号外が出て、復縁は伝えないというのはちょっとバランスが悪い気もするけれど、黄薔薇のつぼみの妹が登校したというところまでしか伝えなかったかわら版が特に号外を出すまでもなく、黄薔薇姉妹の復縁はあっさりと高等部の中で知れ渡ったらしい。そして、真美さまの予想通りに後追い復縁も密かなブームになったようだ。
いずれにしても、日々スクープを追って、それを伝えたい姉にとって、試験前から試験期間中、そして試験休み後は終業式1日を挟むとすぐ冬休みというリリアンかわら版を出せない期間というのは、先に想像するだけでとても長く、そして辛い時間だとわかってしまうものだったらしい。実際、そんな姉と私の予想はおおむね当たっていて、その時期の姉には何か記事にしたいことがあったようで、試験勉強に集中できていると言ったら語弊がある状態だった。
そんな姉に対して、私は勉強は普段からそれなりにしていたから集中しつつも少しだけ余裕があって、だからふと思ったりした。姉ほどではないにしても、姉と同じ新聞部の人はみんなこうなんだろうか? と。
もちろん、中等部の私が知っている高等部の新聞部の人なんて限られていて、しかもそのとき私が思い浮かべたのはそのうちの1人だけだったかもしれないけれど、私は新聞部の部員だとしても普通は試験となれば試験のことに集中しているはずだと思った。姉みたいにずっとそわそわ、そわそわしてないはずだって。
そして、そんな試験も終わりクリスマス・イブ。私は菜々さんと一緒に終業式のあとのミサに足を運んだ。
1年生のときは行かなかったのに2年生になったらどうして行くことになったのか、それは菜々さんに誘われたことが1番の理由だったけれど、そこに行けばもしかしたらその人に会えるかもしれない、という考えがそこになかったと言えば嘘になってしまうだろう。
高等部のお姉さまたちがいるから、中等部の生徒は後ろの方でやや遠慮がちにひっそりとしている。私はそんな場であまりきょろきょろするわけにいかなかったから周りや前の方を十分に見回すことができなくて、その人の姿を見つけることは結局できなかった。
もしかしたら最初から、真美さまはミサには来ていなかったのかもしれない。