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約3週間。それが、私が動揺していた時間とためらっていた時間を合わせた時間。
『黄薔薇革命』からそれだけの時間が経って、私はようやくその人に話を聞く決心をした。たぶん、それは本当は「決心」なんて大げさな言葉を使わなきゃいけないようなことではないはずなのだと思う。真美さまの話を聞いたからって、全てが解決するという保証なんてないし、解決も何も、そもそも何が問題なのかもわかっていないのだから。
真美さまにとってもそんな覚悟をされるのは迷惑なことだって、そのくらいのこと私にももちろんわかっていた。ただ、菜々さんにも指摘されたように、私にとってその人の考えを聞くということは、築山なつが自分なりの納得をするためには欠かすことのできないものなのだろう。だから私には間違いなくそれは1つの「決心」だったのだ。
一目で姉がやったことだとわかるその号外のあとには続きがあって、毎週発行される正規のかわら版には黄薔薇のつぼみの妹……いや、「元」黄薔薇のつぼみの妹に影響されて妹が「革命」を起こした姉妹がリストアップされていた。そして私は、そのリストアップをしたのはきっと真美さまなんじゃないかと感じていた。証拠なんてない。ただ、その予想は単なる「なんとなく」よりはもう少しだけ自信のあるものだった。
かわら版に載っているそのリストからは姉妹の悲しみは聞こえてこない。もちろん喜びなんて聞こえることはない。そこにあるのはただ、その姉妹が別れたという淡々とした事実だけ。私はそれを見て、淡々とその取材をした真美さまがなぜだか見えた気がしたし、そう考えると余計にその隣で躍る姉の文とそのリストが、姉と真美さまという2人の姉妹らしいものに感じたのだ。
真美さまは『黄薔薇革命』をどんな風に思ったのだろう。真美さまなら何か私に答えをくれるんじゃないだろうか。そんな風に考えるのは私が自分の予想に期待を、期待に予想を重ねた結果なのだと思う。
どうして真美さまなんだろう? 目標にしている人だから? ちゃんと自分を持っている人だから?
それは私自身にも不思議なくらいわからないことだった。どうしてなんだろう?
ただ、とにもかくにも私は3週間という時間をかけて決心をした。そして、ようやくそのための行動をしたのだ。その日、その3週間かわら版の反響のためにとてもご機嫌で、だから少しだけ距離を置いていた姉に私から声をかけて。
「ねえ、お姉ちゃん。私、真美さまに会いたいんだけど……」
でも、これが間違いだった。会いに行くでも待ち伏せするでも、どんな方法を選ぶにしても姉を通さなきゃいけない理由なんてなかったのに……。
「何? 真美に用でもあるの?」
「ううん。用ってほどのことじゃないんだけど、その……ちょっとお話しをしたくて……」
姉は、私の言葉に少し首をかしげつつ、何か確認のように聞いてくる。
「……それって、用はないけど会いたいってこと?」
私はその問いに「違う」と答えるのは間違いだと思った。少し話をしたい。それは私にとっては「決心」さえ必要なことではあったけれど、でもきっと、普通それは「用」とまで言うようなことじゃないはずだから。
そう、だから私は、必ずしも積極的な肯定というわけではないけれど、姉のその問いにはうなずくしかなかったのだ。
「……うん。そうだけど」
すると姉は何か愉快そうに、とても興味深そうに「へえ」と笑みを浮かべ、そして言った。
ひどくご機嫌な口調で、その言葉を。
「用はないけど会いたいなんて、恋する乙女みたいね。なーに? なっちゃん、真美のことが好きなの?」