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 良きにつけ悪しきにつけ、姉の行動は私を大きく揺り動かす。
 だから私は、自分の気持ちや行動、あるいはその後の生活さえも、その姉の行動によって様々な影響を受けてきたと言って間違いないのだと思う。
 いずれにしても、そのときもまた私は姉の行動、つまり『黄薔薇革命』と銘打たれたその号外によって大きく揺さぶられ、そしてそれは、その後の私にとって大きな転機にもなったのだ。
「あの記事、なっちゃんには面白おかしく喋るような内容じゃないんだよね」
「……どうして?」
「なっちゃんはそうなんだって、何か、わかったから」
「菜々さん……」
 あっさりと、そう私の心境を正しく言い当てたその子との仲が単なる隣のクラスの元クラスメートより近いものになったのは、間違いなく姉が起こした大きな波のおかげだった。
 その日、私は菜々さんに改めてお礼を言いに昼休みに隣のクラスを訪ねて、そのときについ自分の心のざわつきを読み取られてしまったのだ。いや、本当は朝の時点で読み取られていたのだと思うけど、菜々さんはクラスメートたちの前ではそれを指摘しなかった。それはきっと、私のクラスメートたちに、そして私に気を遣ってくれたのだと思う。
 それに気付いた私の中で有馬菜々さんに対する印象は、当たり前のように「あまり話をすることもなかった元クラスメート」よりもずっと良くなった。明るくてスポーツの得意な菜々さんは、鋭くてそれでいてさりげなく気遣いもできる人。きっと、「なっちゃんには」と言った菜々さん自身は、クラスメートたちほどじゃなくても『黄薔薇革命』を楽しめたはずなのに。
 そんな菜々さんはそのとき思いがけないことを口にした。「前から思ってたんだけど」という前置きにほんの小さく微笑んで。
「私、なっちゃんのそういうところ、すごいと思うなぁ」
「え?」
 おそらく感心された側の私はどう反応していいのかわからなかった。だって、私は自分にすごいところなんてあるとは思えなかったし、すごいのはどう考えても菜々さんの方だったから。だけど、私がしどろもどろで何とか返した「そんなことないよ。どうしてそんな……」に、当の菜々さんは表情の変化は最小限に、でもとても興味深そうな口調で続けたのだ。
「真面目で……、って言うのはちょっと違うかな? んー、それと近いんだけど……そう。優しいんだよね」
「……」
 菜々さんの話の論理展開には明らかに無理があった。築山なつがすごいという時点ですでにずれていたけれど、真面目はともかく優しいだなんて……。からかうにしてももっと現実的なことを言うものだと思う。私はその言葉が私を表しているとは思えるはずもなかったから、ただ恥ずかしい気持ちだった。
「あ、ありがと……」
 それまでは同じクラスだったときでもあまり話をすることのなかった2人だから、それとは比べること自体間違っている気がするけれど、その日から菜々さんと私には少しずつ会話も増えていった。高等部と中等部という距離に比べれば、壁1枚隔てただけの隣のクラスはずっと近い場所だった。
「なっちゃんの話って、私にはすごく面白いよ」
 菜々さんがどうして私の話を面白いだなんて言うのか私には全然わからなかったけど、嫌がられていないか確認するたびにそんな風に返された私は、いつしかそんな確認をすることもなくなっていった。私にとっての菜々さんはそれまでの誰とも違う存在で、それは菜々さんが私と同い年だったからだと思う。自分自身でもわからない心のざわつきを話すことのできる同級生、それはとてもありがたい存在だった。
 そんな風に菜々さんと話せるようになったこと。それは姉が起こした波によって私に起こった影響で間違いなく良かったこと。
 だけど、『黄薔薇革命』と題されたその号外が私に与えたものはやはりそれだけではなかった。「悪い」と言うべきではないかもしれないけれど、良い方には入れることのできないそんな影響。私の心のざわつきの理由、それは間違いなく、長い間眠りについていた私の中の疑問が目を覚ました証拠だった。
 姉妹って何なんだろう?
 わからないままで落ち着いていた気持ちが、このとき私の中にはなくなってしまっていた。


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