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 どうして姉妹になったのか? 姉妹って何なのか?
 結局のところ、わかったことは私にはよくわからないということだけなのかもしれない。
 築山三奈子の姉妹である3人のうち、私はそもそも選ぶとか選ばれるといったこととは無縁の姉妹だけど、私以外の2人は選び、選ばれた姉妹。その2人が築山三奈子を選んだ理由は少なくともその頃の私にはわからないものだった。
 ただ、その頃から私は、そのわからないこともわからないままでいいと思えるようになりはじめていて、だからきっと、私はそれまでよりずっとその疑問に対して落ち着いていられるようにもなっていたのだ。
「三奈子は面白い記事を書くのよね。見つけてくるネタ自体も面白いんだけど、あの子は文章も面白いのよ。何て言えばいいのかしら? ちょっと小説みたいで」
 そう姉のお姉さまは言っていた。私は新聞記事と小説って違うものじゃないかと思った。
「まあ、かわら版に関してだけはお姉さまはすごいと思うわ。まさか、茂みに隠れて取材してるなんて知らなかったもの」
 そう姉の妹は言っていた。私はそれってどう考えても盗み聞きじゃないかと思った。
 いずれにしても、姉と姉のスールには『リリアンかわら版』というつながりがあって、それがお互いにとって大切なものならば、きっとそれでつながっている相手も大切にできるのだろう。私にはわからないというただそれだけ。だって、姉の話に何度となく登場していた2人が姉にとって大切な人であるかどうかなんて、考える必要もないことだったから。
 あるいは、その理由だって『リリアンかわら版』のことだけじゃないのかもしれない。そういえば、いつだったか姉のお姉さまはこうも言っていた。
「こんなこと言うと、なっちゃんはあまりいい気はしないかもしれないけれど」
 そんな風に前置きをするとほのかな笑みを浮かべ、「三奈子はあれで結構可愛いのよ」と。一緒にいた姉は聞こえない振りがとても下手で、私の知らない顔で恥ずかしそうに喜んでいた。
 そのときの私は、そんな前置きが必要なら言わなくてもいいのになんてわずかに反発するように思って、それを理解することも、素直にその言葉を受け取ることさえできなかったけれど、でも少し時が経って落ち着いて考えてみれば、それは当たり前のこととして納得することもできた。
 そこにある「可愛い」には明らかなひいき目が含まれている。だけど、姉のお姉さまにとっては築山三奈子が可愛く見えるというのなら、それは仕方ない。
 姉のスールは私の知らない姉を知っている。私はきっと姉のスールが知らない姉を知っている。私だけじゃない。わからないものはお互いにたくさんある。
 もしも私が、私の知らない姉を知りたいと思ったなら、中等部の生徒だから手にしたことがない『リリアンかわら版』を読めば少しはわかったのかもしれない。見せてほしいと言えば、こっちが望まないくらいに姉は喜んで見せてくれたに違いないけれど、私はそうする気にはならなかった。
 いつかわかるときが来るなら、そのときを待った方がいい。もしもわからないままだとしてもそれでいい。別に私は達観なんてしているわけじゃなくて、たぶんそれは信頼に似た気持ちが生まれたせい。
 真美さまのことだから、あんな姉でも「お姉さま」と呼んでもいい、呼ぼうと思った理由がきっとあるのだろう。
 そう、それは私の「つ」にもちゃんと理由があったように。


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