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 あ、そうそう、と。すっかり忘れていたかのようにつぶやいたその人は、ちゃんと今思い出した風を装って話を戻した。
「私がどうして築山三奈子さま『なんか』の妹になったのか。だったわよね?」
「はい。お姉ちゃん『なんか』の妹になった理由です」
 どう考えてもわざとくっつけた真美さまの「なんか」に合わせて、私も「なんか」で返した。いまさら改めたら負けのような気がしたのだ。本当のところ、勝とうと負けようとそれははっきり言ってどうでもいいことではあったと思うけど。
 たぶん、そんな風にどうでもいいことにこだわっていた私というのは、そのとき必ずしもその答えに期待していなかったのだと思う。そう、たとえそのとき真美さまが、もう冗談交じりのことを言うような顔をしてはいなかったとしても。
 真美さまは至極真面目な口調で、「築山三奈子の妹」になったその理由を口にした。
「それはね。姉妹の申し込みをされたから、よ」
「……」
 なんて、とんちの利いた答えだろうか。
 確かに姉の申し込みを真美さまが受けたから2人は姉妹なのであって、その姉の申し込みというものがなければ真美さまが妹になるということもなかっただろう。
 期待云々は別にしても、私はそんな答えは全然予想もしていなかったから、それは答え方の巧さという意味においては感心さえしてしまうものだった。ただしそれは、もちろん私の望む答えの方向じゃない。
 だってそんなこと当たり前すぎて参考になんてなるわけもない。申し込みをされたら相手は誰でも構わなかったなんて、そんなことは絶対ないはずだ。だから私は、やっぱりその真美さまが口にした理由もまた私をからかっての言葉と、そういう風に理解するしかなかった。
「……、そうですか」
「不満そうね?」
「いえ、そんなこと……」
 不満顔を読み取れるなら最初からちゃんとした答えを返してくれればいいのに……。
 改めて聞き直すこともできず、かといって、「じゃあ」とばかりに不満だなんて言えるわけもない私は口を結ぶ。
「……」
 真美さまはそんな風に何も言えなくなった私を見つめていた。そして少し、私が「そういえば真美さまはお姉ちゃんを探しにいかなきゃいけないはずだ」ということに気が付いて、「それなのにどうして?」と怪訝に思いはじめたそのときだった。ほんの小さなため息が1つ、そこに漏れた。
「ふぅ……」
「真美さま?」
「今の。別にからかおうとか、はぐらかそうとしたわけじゃないのよ。あれはあれで本当だから」
「……はあ」
「うん」
 そう言われてもどう返したらいいのだろうか。私にはわからなかった。それはわざわざもう一度強調しなきゃいけないようなことなのだろうか? だって、「申し込みをされたから」なんて、そんなの当たり前のことじゃないか。
 そう、こんな風に。
 このときの私はスールというものからまだずっと遠いところにいて、だから知る由もなかったのだ。
 その「申し込みをされたから」という理由、真美さまの言葉、それがどれほど重いものであったのかなんて。そして、その重さを私も理解することになる日が来ることなんて。


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