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夏を越え、秋を過ぎ。冬ももう衰えを見せ、また春の足音が聞こえはじめる。
そのうちのいつであっても、その頃の私はスールというものに対して憧れる気持ちは全くと言っていいほど持っていなかった。
そればかりか、むしろ私は姉妹というものが何なのか自分の中で答えが出せずに落ち着かない気持ちでいたし、姉のお姉さまとはそういう私の側の事情で仲がいいという状態にはなれなかった。つまり、その頃の私はどちらかと言えばスールというものから遠ざかりたい、遠ざけたい、そんな心境だったのだろう。
だから例えば、ある日の夕食のときに母が言ったこんな他愛のない言葉も耳から耳へと何事もなく通り過ぎてはいかなかったのだ。
「三奈ちゃんも2年生になったら妹を作るのよね?」
しっかりと考えていたわけでなくとも、私はたぶん姉もまた誰かの「お姉さま」になるだろうことは考えの中に置いていた。だからその母の問いも、姉が特に思案することもなく「そのつもり」と答えたことも、それは問題ではなかった。
妹を「作る」。
私の心が反応したそれは単なる言葉の遣い方の問題で、そんなことでいちいち引っかかるというのは過敏だとしか言いようがない。だけど、少なくとも私はその言葉を耳にしてまた自分の中にいる疑問が少し動いたことを感じたのだ。
「三奈ちゃんはどんな子を妹にしたいのかしら? やっぱり可愛い子?」
「そうねぇ」
母と姉はそれから、ああでもない、こうでもないと未来の姉の妹にいろいろ条件を付けた。
素直で優しくて、賢すぎない程度に頭が良くて、自慢できるくらい可愛いけれど、それは引け目を感じるほどであってはいけない。などなど。
私は現在においてもその未来においても姉の妹だけど、そんな条件を出されたらお手上げだと思った。でも、その条件を出した姉自身だってそのうちのどのくらいの条件を満たしていると言えるのだろう? それともそんな姉を選んだお姉さまの好みは変わっているのだろうか?
いずれにしても、私はその会話に加わることはなかったし、私と同じその「築山三奈子の妹」という立場になる誰かに何か期待することなんて全くなかった。
姉がどんな姉妹を持つとしてもそれは姉の問題で、私の問題じゃない。それに、もし仮にその誰かが母や姉の言う条件を全て満たしているような人であっても、私がその人とうまくやれるかどうかはまた別の問題なのだから。
遠くに聞こえていた足音は大きくなったと思えばあっという間に通り過ぎ、桜色の季節も瞬く間に終わった。姉も私も卒業と進学をした1年前とは違い、築山家には特に何事もない穏やかな春だった。
中等部の私にとっては、進級するということにほとんど意味の感じられないその季節を、妹を「作る」ことができるようになる高等部の姉はどんな心境で迎えたのだろう。
「あ、そうそう。妹ができたわ」
そんな日々の中、姉はその誰かとどんな風に出会ったのだろう。
お姉さまができたときとは全然違う。その報告の口調や濁流とまでは言えないその人の情報量を私は、理想は理想で、現実は現実なのだということを如実に物語るものだと思った。
だからもちろん、私は私と同じ立場になったその誰かに期待することなんてやっぱりなかったのだ。